大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

宇都宮地方裁判所 平成元年(行ウ)4号 判決 1992年7月15日

原告 有限会社ササヌマ

被告 氏家税務署長

代理人 武田みどり 津田真美 谷古宇弘次 村田英雄 多田賢一 川崎利夫 国井昭男 ほか二名

主文

一  被告が原告に対して昭和六三年一二月一九日付けでなした酒類販売業免許申請に対する拒否処分を取消す。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

主文と同旨

二  請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、昭和六三年一月九日、被告に対し、酒税法九条一項に基づき、次の内容の酒類販売業免許の申請(以下「本件申請」という。)をした。

販売場の所在地 栃木県矢板市東町七三一番地五、七三一番地六

販売場の名称 セブンイレブン矢板バイパス店

販売酒類の酒類 全酒類

販売の方法 小売業

2  被告は、昭和六三年一二月一九日付けで、原告に対し、本件申請は、酒税法一〇条一〇号及び一一号に該当することを理由として同免許を拒否する旨の処分(以下「本件処分」という。)をした。

3  しかし、以下のとおり、酒類販売業免許制度(以下「酒販免許制度」ともいう。)を採用している酒税法九条、一〇条の規定は、憲法二二条一項に違反し無効であるから、右酒税法の規定に基づく本件処分は違法である。

(一) 酒税法九条、一〇条で採用されている酒販免許制度は、職業選択そのものを直接制約する最も徹底した規制にほかならない。更に、酒販免許制度は、「酒税の保全」「酒税の確実な徴収」ということを最終目的とするものであるとしても、その直接的第一次的目的は、「滞納予防」という消極的なものである。また、酒販免許制度は、それ自体は、租税の賦課徴収の直接の行為に該当するものではなく、租税政策自体から見れば間接的な制度に過ぎない。したがって、この規定の合憲性を検討する場合には、いわゆる「明白の原則」の基準ではなく、具体的規制の目的、必要性、内容、これによって制限される職業の自由の性質、内容及び制限の程度を検討し、比較較量したうえで慎重に決定されなければならない。

(二) 具体的規制目的における正当性の欠如

被告は、酒販免許制度の目的を「酒税の保全」と主張するが、租税政策によって、職業選択の自由そのものを制約することは疑問である。

職業選択の自由、営業の自由は、自由な経済活動が拘束され、租税徴収の目的のために営業が許可制の下に置かれてきた封建制への抵抗を通して確立されてきたという歴史的沿革に照らすと、租税収入の確保を目的とした許可制は、憲法が基礎とする自由経済と福祉国家の原理とは全く相入れない。また、酒税確保を目的とした営業許可制度が許容されるならば、消費税などの他の間接国税の収入確保を目的とした営業許可制も正当視されなければならず、国民の職業選択の自由は、租税政策次第でどのようにも左右され、憲法二二条一項の基本権の保障は空文化されてしまう。

更に、酒販免許制度は、直接的第一次的目的は滞納予防という消極的な性格のものであり、後記のとおり酒税法が酒税の保全のために多くの法的手段を講じているのに加えて免許制度を採用している直接の理由は、販売業者の濫立を防止し、酒造業者の酒税滞納を予防しようとする予備的なものであり、国の責務としての積極的な社会経済政策の実施の手段とは考えられない。このような消極的性格の目的から職業選択の自由そのものを直接制約する最も徹底した規制である免許制度の正当性を基礎付けることはできない。

(三) 規制手段における合理的関連性の不存在

仮に、酒税の保全という目的自体が職業選択の自由を制限する理由として正当なものであるとしても、酒類販売業者について免許制度を採用することは、その規制の手段、態様において著しく合理性を欠くことが明白であって、右目的達成のために必要な合理的手段であるとは到底認められない。

酒税を納付すべき義務者は、酒類の製造者又は酒類を保税地域から引き取る者であって、酒類の販売業者ではない(酒税法六条)。したがって、酒税保全の目的のためには、酒類製造者又は酒類引取者を免許制度のもとに置くことで十分である。酒類販売業者が、消費者と酒類製造者との間にあって、消費者から酒類製造者への納税資金の還流を円滑ならしめる地位にあるとしても、酒類製造者も一個の企業人として自己の製造した酒類を販売する相手方の資力、信用については一般の企業が払うのと同様な注意を当然に払って取引をするのであり、そのような注意能力をもとより有し、それ以上に、酒類製造者を政府が後見的に保護しなければ酒税収入の安定を害するという事情は見当たらない。

更に、酒税法は、酒税徴収を確保するために、酒類製造者に対して、申告書提出義務、各種事項の帳簿記載義務、申告義務、質問検査、検定受忍義務、承認を受ける義務、届出義務、酒税証紙貼付義務を課し、その懈怠には刑罰をも規定し、国税庁長官、国税局長または税務署長は、酒税保全のため必要があると認められるときには、酒類製造者に対して酒税につき担保の提供を命じることができ、提供すべき担保がないときは、酒税の担保として酒類の保全を命ずることができるとしている。しかも、酒税は、酒類製造者がその製造場から酒類を移出した月の翌月末日までに納付しなければならないとし、酒類製造者の資産、信用等の変化による影響を受けないよう配慮されている。

このような方策に加えて、酒税納付義務者でもない酒類販売業者まで免許制度の規制の下に置くことは無用の処置であり、目的達成のために必要な合理性を著しく欠くことが明白である。

(四) 比較考量

前記(三)のとおり、酒税法は、酒類製造者から酒税徴収を確保するため万全の処置を講じており、更に酒類販売業者にも酒類製造者同様の酒税徴収確保のための諸義務を課しており、これに加えて酒類販売業者を免許制度のもとに規制したとしても、これによって国家に付加される利益は極めて僅少なものに過ぎない。これに対して、酒販免許制度のもとで不許可処分を受けた申請者は、希望する酒類販売業の開業自体が完全に抑制され、その職業選択の自由は全面的に剥奪され、不利益の程度は著しく重大である。加えて、酒税の租税収入に占める割合は、平成元年度において三・三パーセントに過ぎず、国家財政に占める割合は著しく低下している。このような酒税保全という目的のための免許制度の採用は著しく均衡を欠いている。

(五) 立法事実

現在では、酒類販売業者についてまで免許制度を必要とする立法事実自体が存在しなくなっている。

すなわち、酒販免許制度が採用された昭和一三年には、増税のため酒類に対する物品税を庫出課税の方式で導入しなければならなくなり、これに反対する酒造業界の一部を懐柔するため、酒販免許制度を導入せざるを得なかったという理由がある。また、昭和一三年当時は戦時経済統制法制が本格的に展開された時期であり、異常な時代背景のもとで導入された酒販免許制度が今日なお維持されていることは不合理である。

更に、現在においては、前記(四)のとおり、国家歳入に占める酒税の重要性は、戦前や昭和二〇年代と比べ、著しく低下しているうえ、酒販免許制度は、酒造業者と既存の酒類販売業者の利益確保のための制度となり、酒税法一〇条やこれに関する通達は、合理的理由もなく極めて恣意的に運用されている。

4  また、本件申請は、酒税法一〇条一〇号及び一一号のいずれにも該当しないから、本件処分は違法である。

5  よって、原告は、本件処分の取消を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1及び2の事実は認める。

2  同3の主張は争う。職業選択の自由の性格、酒類販売業免許制度の性格に照らし、酒税法九条、一〇条の規定が合憲であることは明白である。

(一) 職業選択の自由の制約

憲法二二条一項は「何人も、公共の福祉に反しない限り、居住移転及び職業選択の自由を有する」旨規定しており、職業選択の自由は、すべての人権に内在するいわゆる内在的制約のほか、国家が経済的自由に対して規制を加える必要があるという歴史的要請から社会国家的立場に基づく政策的制約を受ける。

(二) 職業選択の自由の制約に関する司法審査基準

職業選択の自由の制約の憲法適合性に関する司法審査の基準を明らかにした最高裁判所昭和四七年一一月二二日大法廷判決(刑集二六巻九号五八六頁)及び最高裁判所昭和五〇年四月三〇日大法廷判決(民集二九巻四号五七二頁)を整理すると、職業選択の自由に対する制約につき、積極目的の制限の場合は、規制の目的において一応の合理性が認められ、また、規制の手段・態様においても、それが著しく不合理であることが明白でない限り合憲であり、一方、消極目的の制限の場合は、規制の手段・態様においては、よりゆるやかな制限によっては規制の目的を十分に達成することができないと認められることが合憲性の審査基準となる。

(三) 酒販免許制度の目的

酒販免許制度は、昭和一三年から実施されたものであるが、昭和一三年当時、酒類販売業者は二四万人から二五万人に達し、各業者間の販売競争が激化し、乱売に拍車がかかって売行不振を来して倒産する販売業者が増加し、酒類の醸造業者もその影響を受けて売掛代金の回収に多大の困難を来し、酒税の納税義務の不履行を招来することとなったという事情を背景として、立法化、施行されたものである。酒販免許制度の基本目的は、酒類販売業者の経営の安定、酒類の需給の均衡維持を通じて酒税の保全を図ることにある。酒類の需給の均衡維持という直接の目的について考察すれば、それは社会経済政策の見地から消費者の需要に対して酒類を適正に、つまり過不足なく供給し得るよう酒類販売業者の濫立や過当な販売競争を防止し、その経営の安定を図ることを目的とするものである。

また、酒販免許制度は、酒税の逋脱に加担する危険性の高い人物が酒類の販売に関与したり、そのような販売場が設置されたりするのを防止し、もって酒類の販売体制を健全化しようとするものであり、酒税の逋脱防止をも目的とした制度である。

(四) 酒販免許制度の合理性

(1) 酒税は、古くから租税収入中、常に重要な地位を占めてきており、現在においても、国、地方公共団体の財政において極めて重要な財源となっている。そして、酒税は、他の消費税に比し、その税率が極めて高いので、酒類製造者が負担しなければならない納税額も必然的に高額であるため、酒類製造者の税負担が消費者へ確実に転嫁されなければ、徴税確保のために納税義務者と定められた酒類製造者に過重な負担をかけることとなる。そこで、酒税法は、いわば中間的な徴税期間ともいえる酒類販売業者にも免許制度を採用し、酒税制度が有効に機能するようにしているのであり、酒販免許制度は酒税制度を維持するうえにおいて、極めて重要な役割を果しているのである。

(2) 酒税の税率は極めて高く逋脱自体による国の損失額も大きいうえ、逋脱酒はその小売価格を低減できるため、流通性は極めて高く、逋脱が多発した場合は市場の混乱する危険性は極めて高く、ひいては酒税制度の崩壊を招くおそれがある。また、酒類は簿外の製品を生み出すのが比較的容易な物品であり、酒類製造者の逋脱に加担する販売業者があれば、酒税の逋脱は容易に行われ、かつそれを認知することは困難であるから、酒類販売業者に対しても免許制度を採用し、記帳義務などの規制を加えたことは十分に首肯し得るところである。

(3) 酒税の滞納は他の税目に比較して極く少ないのであるが、多額の酒税が効率的かつ安定的に確保できているのは酒販免許制度に負うところが大きい。

(4) また、酒税に関する行政事務量は、酒類販売業者が免許制度下にあるところから、少ない投入量で対処できている。

(5) 酒販免許制度は、粗悪品の流通を未然に防止し、致酔飲料としての酒類の販売秩序を保ち、飲酒による事故、アルコール依存症、未成年者の飲酒など種々の社会問題を防止することにおいて、社会秩序の維持、国民衛生の確保に寄与するなど付随効果も多岐にわたり、社会的役割も大である。

(6) 酒税法一〇条は、免許の許否の権限を税務署長に与えているが、その恣意的な判断を排除して免許処分の公正が期せられるよう、免許を与えないことができる場合の消極要件を制限列挙して、免許を与えることを原則とし、更に、公平で統一された執行を適正に行うため、通達等を定め、具体的かつ詳細に酒類販売業免許の取扱事務について規定し、恣意的な判断を排除しており、税務署長の認定判断権も法規裁量とされ、免許を拒否された申請者の法的救済手段に欠けることはない。

(五) 酒販免許制度の合憲性

国の租税収入の重要な一部をなす酒税の保全という規制目的は、公共の福祉のための国の財政政策に係るものであって、職業選択の自由に対する積極目的の規制に属することは明らかである。したがって、酒販免許制度は、規制の目的において一応の合理性が認められ、また規制の手段・態様においてそれが著しく不合理であることが明白でない限りは合憲と判断されるべきである。

前記(三)、(四)で述べたとおり、酒販免許制度は、その規制目的に合理性が認められ、規制の手段・態様においても、それが著しく不合理であることが明白でないことはもとより、その規制の目的及び規制の手段・態様においても十分な合理性を認めることができるのであって、重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であり、立法府の裁量を逸脱し、著しく不合理であることが明白な場合であるとは到底言えず、合憲性は明らかである。

3  同4の主張は争う。

三  被告の主張

原告には、本件処分当時、次のとおり、酒税法一〇条一〇号、一一号に該当する事由が存した。

1  酒税法一〇条一〇号該当事由

(一) 酒税法一〇条一〇号後段に規定する「経営の基礎が薄弱であると認められる場合」とは、「事業経営のために必要な資金の欠乏、経済的信用の薄弱、製品または販売設備の不十分、経営能力の貧困等、経営の物的、人的、資金的要素に相当な欠陥があって、事業の経営が確実とは認められない場合」をいう(昭和五三年六月二七日付け間酒一―二五国税庁長官通達、以下「基本通達」という。なお、通達については、いずれも本件処分当時実施されていたものを示すものとする。)と解される。

(二) 原告の経営状況について

(1) 原告の決算報告書によると、原告は、第一期事業年度(昭和六〇年一二月五日から昭和六一年四月三〇日まで)に四九万九一九二円の損失金を計上し、第二期事業年度(昭和六一年五月一日から昭和六二年四月三〇日まで)に一一七万八〇四九円の損失金を計上し、昭和六二年四月三〇日現在で一六七万七二四一円の未処理損失金を抱え、六七万七二四一円の債務超過となっており、第三期事業年度(昭和六二年五月一日から昭和六三年四月三〇日まで)において、一〇万六三六四円の利益金を計上したものの、依然として一五七万八七七円の未処理損失金を抱え、債務超過の状態が継続し、第四期事業年度(昭和六三年五月一日から昭和六三年八月三一日まで)に一八〇万八六三一円の利益金を計上している。

(2) しかし、原告は、第三期事業年度において、昭和六三年一月から原告代表者笹沼英男所有の原告店舗の賃借料を月額三五万円から三〇万円に減額しており、右減額がなければ、第三期事業年度においても、九万三六三六円の損失金を計上することとなり、前記からの繰越損失金一六七万七二四一円との合計額一七七万八七七円が未処理損失金として計上された筈である。

また、第四期においては、決算期を変更して期間四か月の短期決算を組み、右のとおり店舗賃借料を減額したまま据え置くとともに、原告の代表取締役笹沼英男の役員報酬を月額七五万円から五五万円に、取締役笹沼サヨの役員報酬を月額五五万円から四〇万円に、それぞれ減額し、右四か月間に賃借料及び役員報酬を合計一六〇万円減額することにより、利益金一八〇万八六三一円を計上して前期までの未処理損失金一五七万八七七円を補填しているが、これらを減額しない場合には、その利益金は二〇万八六三一円に留まり、第三期からの繰越損失金一七七万八七七円を補填しても第四期末において依然として一五六万二二四六円の未処理損失金を抱えることとなる。

(3) 賃借料及び役員報酬の右減額については、合理的理由が認めがたく、原告において未処理損失金の解消を企図して、右減額による計算上の繰作をなし、もって、経営の低調な業績を取り繕ったものと推認できる。

(4) また、原告が有限会社前田酒販(以下「前田酒販」という。)との間で締結したコンサルタント業務契約において、原告は、前田酒販が行う酒類販売業資格取得の促進、指導のための顧問料として前田酒販に一三〇〇万円を支払うことを約し、うち六五〇万円を昭和六二年一二月一六日に支払ったが、これは第三期の決算報告書上では前払金として処理され、費用には計上されていない。右契約によると、原告は酒類販売業免許が付与された時は五日以内に残金の六五〇万円を前田酒販に支払う義務が生じ合計一三〇〇万円が費用として計上されることになり、免許取得後の営業状態は一層悪化することが予測される。

(三) 人的要素について

(1) 原告の取締役山本啓一(以下「山本」という。)は、昭和六二年度分及び昭和六三年度分の市県民税を滞納し、矢板市から再三の催告を受けたにもかかわらず、本訴で被告から納税義務の不履行の指摘を受けるまで、納付せず、納税の義務を確実に履行しない状況にあった。

(2) また、山本は、前田酒販に昭和五二年二月から勤務し、同社の経理部長の職にあるとされているが、前田酒販は、昭和五七年から昭和六二年にかけて四度に亙り手形交換所から銀行取引停止処分を受け、また、所有する土地や代表者の母親所有の営業の本拠地である土地店舗につき、宇都宮市や金融機関から差押を受け、債務総額は八億九〇〇〇万円を超えているほか、法人税の確定申告書を提出しなかったり、法人税、源泉所得税を追徴されるなどしており、資金の欠乏、経済的信用の薄弱、経営能力の貧困及び遵法精神の欠如は顕著であり、同社の経営に携わってきている山本の経済的信用の薄弱、経営能力の貧困及び遵法精神の欠如もまた明らかである。

2  酒税法一〇条一一号該当事由

(一) 酒税法一〇条一一号に規定する「酒税の保全上酒類の需給均衡を維持する必要がある」の意義は、「新たに酒類の製造免許又は販売免許を与えたときは、地域的又は全国的に酒類の需給均衡を破り、その生産及び販売の面に混乱を来し、製造者又は販売業者の経営の基礎を危うくし、ひいては酒税の保全に悪影響を及ぼす場合」をいう(基本通達)と解される。そして、昭和三八年一月一四日付け間酒二―二国税庁長官通達「酒類販売業免許等の取扱いについて」通達の別冊「酒類販売業免許取扱要領」(以下「免許取扱要領」という。)等を基準に酒類販売業免許申請の処理がなされているが、免許取扱要領では、小売基準数量及び基準世帯数という形式的基準を定め、免許の付与は、右形式的基準のいずれかの要件を充たす場合に限ることとしているが、需給調整上の要件を形式的基準のみによって判断することなく、但書において、「これらの基準に合致する場合であっても、既存の酒類販売業者の経営実態又は酒類の取引状況等からみて、新たに免許を与えるときは、酒類の需給の均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障を来すおそれがあると認められる場合は免許を与えないこと。」と規定している。

(二)(1) 原告店舗の所在する小売販売地域には、酒類小売販売場が七場存在するが、このうち四場は、販売数量が免許取扱要領で定める同販売地域の小売基準数量の二四キロリットルを満たしていない。また、同地域の合計酒類販売数量は、昭和六〇年が二三五・七七五キロリットルであるのに対し、昭和六一年は二三一・七九七キロリットルであって対前年比は九八・三パーセントであり、昭和六二年は二三一・八四六キロリットルであって対前年比は一〇〇・〇パーセントであり横這いの状況にあり、酒類の需要は頭打ちの状態にある。

(2) 同販売地域の世帯数は、一四九五世帯であるから、原告に免許を付与した場合には、一場当たり世帯数は一八七世帯となって免許取扱要領で定める基準世帯数二〇〇世帯を下回ることとなる。

(3) 同販売地域には、既存酒類販売業者七者七場が酒類小売業を営んでいるが、昭和六二年分の所得税の営業所得金額の申告状況は、七者の平均で年間二五〇万円程度であり、同地域における既存酒類販売業者の経営状況は、必ずしも良好といえず、このような小規模な既存酒類販売業者が存在する地域において、原告(年間酒類売上見込数量六七・六〇九キロリットル)に免許を付与した場合には、既存酒類販売業者の経営努力を考慮しても同販売地域の酒類の需給均衡を破り、既存酒類販売業者の酒類小売数量を著しく減少させるなど重大な影響を及ぼす虞れがある。

(三) 以上によれば、原告に新たに免許を付与した場合には、酒類の需給均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障を来すおそれがあるというべきである。

四  被告の主張に対する認否及び反論

1  被告の主張冒頭部分は争う。原告には、酒税法一〇条一〇号一一号に該当する事由はない。なお、仮に、酒税法九条、一〇条の規定自体は合憲であるとしても、これらの規定は、国民の営業の自由を著しく制約するものであるから、一〇条各号の規定はできるかぎり限定して解釈されるべきである。

2(一)  被告の主張1(一)については、酒税法一〇条一〇号につき、基本通達が被告主張のように規定していることは認める。酒税法一〇条一〇号は、破産者を例示し、それと並列的に「その他その経営の基礎が薄弱であると認められる場合」を拒否事由としており、これは、破産者に準じる程度の信用の欠如を必要とすべきものと解釈すべきであり、基本通達の「相当な欠陥」とは、破産者に準じるような相当程度の欠陥と理解されるべきであり、「事業の経営が確実とは認められない」とは、破産者に準じる程度の回復困難な経営基盤の喪失と理解されるべきである。

(二)(1)  被告の主張1(二)の(1)、(2)の事実は認める。ただし、原告が第二期において、損益決算上赤字を計上しているのは、原告店舗の前面の国道四号線につき、側溝整備、歩道設置工事が行われたため、原告店舗への侵入が困難となり、顧客が減少したことと、この工事期間中に台風の襲来が二度あり、豪雨のための雨水が原告店舗内に侵入し、一時店舗を閉鎖しなければならなかったことという一時的な要因に基づくものである。

(2) 被告の主張1(二)の(3)は争う。原告は、笹沼英男と妻の笹沼サヨを社員とする個人企業に近い同族会社であり、その決算は、法律上可能な限りで税金の負担を軽減する会計処理がなされていたのが実態であり、笹沼英男とその家族に支払われる役員報酬及び賃料は、会社の収益と個人の収入との調整の役割を担う科目となっていた。すなわち、会社の利益が上がれば、それに応じて役員報酬等の金額を上げて、会社の利益を減少させ、会社の利益が減少すれば、これに応じて、一定の手続きを経たうえで減額し、会社の利益を上げるために貢献させたものである。したがって、経営実態を把握するためには、単に決算書類上の数字を見るだけでは足りず、事実上のオーナーやその家族にどれくらいの利益が還元されているかをも併せ検討する必要がある。

(3) 被告の主張1(二)の(4)のうち、原告が前田酒販とコンサルタント業務契約を締結し六五〇万円を支払ったこと、これが、決算書上前払金として処理されていることは認め、その余の事実は否認する。原告が酒類販売業免許を取得できればかなりの売上を獲得することができ、前渡ししたコンサルタント業務委託料は今後原告の収益に寄与するものであり、酒類販売が開始されれば、費用化しても十分に利益を維持することが可能である。

(三)(1)  被告の主張1(三)(1)のうち、山本が原告の取締役であることは認め、その余の事実は否認する。

(2) 被告の主張1(三)(2)のうち、山本が昭和五二年二月から前田酒販に勤務し、同社の経理部長の職にあることは認め、前田酒販の経営及び財務状態に関する事実は不知で、その余の主張は争う。

(3) (山本に関する反論)

山本は原告の非常勤役員であり、原告の経営、営業に深く関与することはありえず、現に原告の経営実態においては、笹沼英男と笹沼サヨが中心となっており、山本は全くといって良いほど関与していない。したがって、山本の信用及び山本の勤務する前田酒販の信用が原告の経済的信用に影響を及ぼすことはない。

(四)  (反論)

(1) 原告は、コンビニエンスストアーの最大手であるセブンイレブングループに所属しており、その商品管理はすべて本部の指示により的確になされており、売上代金は、すべて本部に送金され、本部から仕入先等に支払がなされている。酒類についても、セブンイレブングループでは、酒類の仕入業者が指定されており、酒類代金の支払名義人は、各酒販業者であるが、その実質的会計処理は本部がしており、酒類代金が酒類の卸業者に支払われないことは考えられない仕組みとなっており、原告においては仕入代金の不払のおそれはない。

(2) 原告店舗の所在場所は、国道四号線矢板バイパスに面しており、矢板市内では、今後の人口増加が最も期待される地域であり、企業としての将来性も十分である。

(3) 原告のような個人企業に近い同族会社における経営実態、営業実態を審査するについては、その社員個人の資力等も十分に考慮されるべきところ、原告の代表者笹沼英男は、原告から多額の役員報酬、賃料収入を得ているほか、別に店舗建物を所有し、これを賃貸して家賃収入を得ているほか、本件免許申請場所の土地及び隣接宅地を所有(合計面積二四六八平方メートル)する資産家であり、金融機関に対する経済的信用も絶大である。

(4) 以上で反論したところによれば、原告は酒類販売業を経営するための十分な経済的基礎を有するというべきであり、酒税法一〇条一〇号に該当する事由はない。

3(一)  被告の主張2(一)のうち、基本通達及び免許取扱要領に、被告主張のような規定が存することは認める。酒税法一〇条一一号の要件は著しく抽象的であり、基本通達の規定でもその内容は抽象的である。したがって、この要件の該当性を判断するに際しては、税務署長の無制限な裁量を認めるべきではなく、制度目的実現のために必要最小限の範囲に限定するという解釈態度をとるべきである。免許取扱要領は、酒税法九条、一〇条を基礎とし、これらの内容を具体化した内部規定に過ぎないのであり、右の限定的な解釈態度を基礎に運用されるべきである。他方で、免許取扱要領の内容は、税務署長の裁量権を制限したものであり、免許取扱要領の規定に反する税務署長の行為は、裁量権の範囲を越え、ひいては酒税法一〇条一一号に違反することとなる。

(二)(1)  被告の主張2(二)(1)のうち、原告店舗の所在する小売販売地域に酒類小売販売場が七場あることは否認し、その余の事実は不知。既存小売販売業は六場である。

(2) 被告の主張2(二)(2)の事実は否認する。小売販売地域内の総世帯数は一七三五世帯であり、既存小売販売場は六場であるから、本件申請を加えた七場で総世帯数を除すると、一場当たりの世帯数は二四七世帯数となり、免許取扱要領で定める基準世帯数を上回ることとなる。

(3) 被告の主張2(二)(3)のうち、既存酒類販売業者が七場あることは否認し、その余の事実は不知。

(4) (反論)

被告の主張による事実関係によっても、本件申請が、免許取扱要領に定める需給調整上の要件のうちの小売基準数量の基準(年平均二四キロリットル)を充足するものであり、免許取扱要領の制定趣旨が税務署長の裁量権の範囲を制限したものと理解すべきことからすれば、免許取扱の形式的基準を充たす本件申請に対しては免許を付与すべきである。被告は、免許取扱要領の第三、一、(1)ハの但書の規定を適用して、本件処分をしたと主張するが、この但書は安易に適用すべきでない。安易に但書の適用をするときは、小売基準数量、基準世帯数の基準を定めた意味が全くなくなってしまい、また、新規免許申請者の営業の自由を制限し、既存業者の既存利益保護の結果を引き起こし、自由競争社会の原則を崩すことにつながることとなる。この但書は、極々例外的に、免許の付与によって需給の均衡を著しく破る具体的な危険性がある場合に限定して適用されるべきである。

被告は、被告の主張2(二)(1)ないし(3)の三点を理由に右但書を適用しているが、これらの理由で但書を適用するとすれば、大都市圏の近隣の人口急増地域以外は、すべて但書の適用を受けることとなり、ほとんどの地域で新たな免許付与は認められない結果となる。

また、本件では、小売販売地域内の既存業者の中には酒類の外に商品を扱っており酒類の販売量が少なくても経営が成り立つ者や、酒屋の収入は家計の補助的な収入でしかない者がいる可能性があるが、被告は、本件処分をなすにあたり、既存業者の営業形態、営業努力について十分な調査をしておらず、適正な手続を履践していない。

更に、原告の予定する販売対象者は主に通行客であり、必ずしも地域の世帯を対象とするものでなく、既存業者の客層と重複する割合は著しく低い。また、本件小売販売地域は、矢板駅と国道四号バイパスに挟まれた地域であり、矢板駅東区画整理事業が進行している地域であり、矢板市内では、今後人口の増加が一番望める地域である。被告は、これらの事情を認識しながら、これを考慮せず、既存業者の経営安定ということのみを考慮して、本件処分をしたものである。

結局、被告が、原告につき、酒税法一〇条一一号に該当する事由があるとしたことは、同条同号の解釈を誤り、裁量権の範囲を逸脱した違法なものである。

(三)  被告の主張2(三)は争う。

第三証拠<略>

理由

一  請求原因1及び2の事実(本件申請及び本件処分がなされたこと)は当事者間に争いがない。

二  酒販免許制度の合憲性について

1  憲法二二条一項は、何人も公共の福祉に反しない限り、職業選択の自由を有する旨規定しており、国民の基本的人権の一つとして職業選択の自由を保障しているところ、酒税法九条一項は、酒類の販売業をしようとする者は、販売場ごとにその販売場の所在地の所轄税務署長の免許を受けなければならない旨規定して、酒販免許制度を採用しており、右制度は職業選択の自由を制約するものといえる。

他方、憲法は、国の責務として積極的な社会経済政策の実施を予定しており、個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関する場合と異なり、右社会経済政策の実施の一手段として一定の合理的規制措置を講ずることを予定し、かつ、許容していると解される。そして、社会経済政策上の積極的な目的のために個人の経済活動の自由に対してなされる法的規制措置については、その規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる限り、その具体的な態様及びその必要性と合理性については、立法府の政策的、技術的な裁量的判断を尊重するのを建前とし、裁判所がその合憲性を判断するに際しては、立法府がその裁量権を逸脱し、当該法的規制措置が著しく不合理であることが明白である場合に限って、これを違憲として、その効力を否定することができると解するのが相当である。

これに対し、基本的人権の内在的制約に基づく消極的、警察的目的のために、許可制を採用して、個人の経済的自由を制約する法律が合憲とされるためには、原則として、それが重要な公共の利益のために必要かつ合理的な措置であることを要し、また、職業活動の内容及び態様に対する規制等、許可制に比べてよりゆるやかな規制によっては、目的を十分に達成することができないと認められることを要すると解される。

2  ところで、酒販免許制度が、酒類に酒税を課すことを目的として制定された酒税法によって設けられた制度で、税務担当機関である税務署長が免許の許否権限を有していること、同法が、免許拒否の要件(一〇条各号、特に六号、一〇号、一一号)、免許の条件(一一条一項)、免許の取消要件(一四条)として規定するところに照らすと、酒販免許制度の主たる目的は、酒類販売業者の経営の安定、酒類の需給の均衡維持を通して、酒税の保全を図ることにあると理解するのが相当である。また、<証拠略>によると、酒販免許制度が採用された昭和一三年以前には、酒類販売業者が乱立し、業者間の販売競争が熾烈に展開されて乱売競争となり、販売業者の倒産や名義変更が年間を通じて全業者数の三割にも達し、酒類製造者もその影響を受けて売掛代金の回収に多大の困難を来して廃業を余儀なくされる者も多数にのぼり、酒税の納税義務の不履行を招来することとなったこと、このような社会的経済的事情を背景として酒販免許制度が立法化されたことが認められ、右の沿革からも、酒販免許制度の目的が酒税の保全にあることが理解されるところである。原告は、酒販免許制度の真の理由は庫出課税方式の採用に伴い、これに反対する酒造業界の一部を懐柔することにあった旨主張し、酒造業界の一部が酒販免許制度の採用を求めていたことは<証拠略>からも窺われ、立法府が酒造業界の要求を考慮して酒販免許制度の採用に踏み切ったことは推察に難くないところではあるが、このような立法の動機、契機があったとしても、酒販免許制度の主たる目的が酒税の保全にあるとすることと相入れないものではなく、右事情は前記判断を左右するものとはいえない。(なお、酒販免許制度の採用により、飲酒による事故、アルコール依存症、未成年者の飲酒等の防止が期待でき、社会秩序の維持、国民衛生の確保に寄与するところがあるとしても、これらは酒販免許制度採用の派生的効果として理解するのが相当であり、酒販免許制度の直接的目的とは解しがたい。)

また、原告は、酒税の保全は、職業選択の自由の制約を正当化する目的とは言えない旨主張するが、国が、国民生活の安定確保、社会経済の発展等の責務を果すための諸政策を推進するためには、膨大な経費の調達を要し、そのため租税収入の確保を図る必要があるところであるから、国の重要な財源を構成する酒税の保全が、職業選択の自由の制約を正当化する目的たりうることは明らかというべきである。

3  ところで、右のとおり、酒販免許制度の目的は、酒税の保全にあると理解されるところ、この目的自体は、国の財政政策に関するものとはいえ、租税の賦課徴収権そのものに関するものでなく、むしろ既に成立した酒税債権を確実に徴収するための手段方策にかかわるものであるといえる。したがって、その合憲性を審査するにおいては、前記の、直截に社会経済政策上の積極目的のために経済的自由を制約する場合の合憲性を判断する基準である明白の原則によることは相当でない。しかし、他方、酒税制度を、その徴収を確実にするための措置、方策と切り離して考えることもできないところであり、酒税確保のための措置選択については、立法府の裁量は相当程度に広範なものとして尊重されるべきであるから、基本的人権の内在的制約に基づく消極目的のために経済的自由を制約する場合の基準を用い、よりゆるやかな制限によっては規制の目的を十分に達成することができないかどうかを厳格に検討して、合憲性を審査することも相当でない。

結局、裁判所としては、酒販免許制度の合憲性については、酒税制度の国家財政における重要性、徴税の確保の必要性との関連において、免許制度の必要性、合目的性、より緩やかな規制の有効性、経済活動の自由に対する制限の強度等を比較考量して、立法府の裁量を踏まえつつ、規制措置が必要性、合理性を有するかを検討することにより決するほかないと考えられる。

4  そこで、右観点から、酒販免許制度の合憲性について検討する。

(一)  ところで、酒税は、間接消費税の一種であり、担税者は消費者であるが、課税方法については、庫出課税方式を採用し、酒類製造者を納税義務者としている。したがって、酒税制度が有効に機能し得るためには、酒税相当額が酒類代金に含められて最終的に消費者へ転嫁されることが必要であるところ、酒税の税率は、他の間接消費税のそれと比べて極めて高くなっており(右は顕著な事実である。)、酒類製造者が負担することとなる納税額も必然的に高額となるから、酒税負担が消費者に確実に転嫁されないときには、酒類製造者の負担は過重なものとなる虞れが強い。そして、酒類販売業者は、酒類製造者と消費者との中間にあって、製造者から消費者への酒税転嫁を仲介する地位にあり、酒税の徴税確保における役割は重要なものということができるから、その経営の安定を図るために、酒類販売業者についても、免許制度を採用することについては、酒税保全という目的との間に十分な関連性を認めることができ、その必要性、合理性も存するというべきである。

(二)  原告は、酒税徴収確保のためには、酒類製造者を免許制度の下に置くことで十分であり、更に、酒類製造者及び酒類販売業者に対し、酒税徴収確保のための諸義務を課す等の方策を加えているのだから、酒販免許制度を採用する必要性はない旨主張する。しかし、酒税の額が極めて高く、酒類製造者の売上高に占める割合が極めて高いことに照らすと、前記のとおり、消費者への酒税転嫁の必要性とそこにおける酒類販売業者の役割は極めて重要であり、酒類製造者の納税資金源となる酒類販売業者に対する酒類販売代金の確実な回収について十分な配慮をすることなく、酒類製造者に対してのみ規制を施すことによって、酒税の保全の目的を達し得るかは疑問が残るところである。また、酒類製造者及び酒類販売業者に各種義務を課すること等によっても、酒税確保のため相当程度の効果が期待できるところではあるが、これらの義務を確実に履行せしめるためには、相当の人員と経費とを投入して、監視、監督を行うことが必要となることが予想され、酒販免許制度なくして、右各種規制を実効あるものとできるかについては疑念がある。

右で検討したところによると、酒税徴収の確保という立法目的達成は、より緩やかな規制によっては十分に果すことができないとの判断のもとに、立法府が酒販免許制度を採用したことは是認できないものでなく、立法府の立法裁量の範囲内の選択であるということができる。

(三)  また、酒税法が、酒類販売業の免許申請に対して、税務署長が免許を与えないことができる場合を限定して列挙し(一〇条各号)、これらに該当する事由がないときは、免許を付与しなければならないものとし、更に、通達等において免許許否行政が公正に行われることを期して酒販免許の取扱事務の運用指針を定めていることをも考慮すると、立法府が、その裁量権を逸脱して、立法目的の実現のみを重視して、不当に職業の自由を制限していると断ずることは困難である。

(四)  更に、原告は、現在においては、酒販免許制度を必要とする立法事実が存在しなくなっている旨主張する。<証拠略>によると、酒税の税額は、昭和六三年度においては二兆八四八億円であり、消費税が導入された平成元年度においては一兆七六五六億円であること、酒税の国税収入に占める比率は、昭和六三年度においては四・五八パーセント(ただし、当初予算案において)、平成元年度においては、三・三パーセントであって、昭和二〇年代から漸次、低下してきていることが認められる。右事実によると、国家歳入に占める酒税の重要性が相対的に低下しつつあることは否めないとしても、その金額及びこれに代替しうる他の財源をどこに求めるかという点に思いを巡らすと、酒税は、なお、国が諸政策を行ううえで貴重な財源であるということができ、その確保は国の重要な目的といえ、酒販免許制度を基礎付ける立法事実が消滅したとは到底いえない。

5  以上検討したところによると、酒販免許制度は、正当な立法目的及び規制手段としての必要性、合理性を備えており、違憲無効なものとはいえないが、狭義の職業選択の自由を直接的に規制するものであることに鑑みれば、免許許否行政の運用において、酒税法一〇条各号を拡大的に解釈して、既存業者の既得利益保護に傾き、新規参入を不当に抑制することのないよう、その適用については、慎重に検討を要するところであると考えられ、本件においても、右観点から、本件申請の免許拒否事由該当性を判断することとする。

三  酒税法一〇条一〇号該当事由の有無について

1  酒税法一〇条は、その一〇号において、税務署長が免許を与えないことができる場合の一として、「申請者が破産者で復権を得ていない場合その他経営の基礎が薄弱であると認められる場合」を挙げており、<証拠略>によると、基本通達は、同号後段の意義について、事業経営のために必要な資金の欠乏、経済的信用の薄弱、製品または販売設備の不十分、経営能力の貧困等、経営の物的、人的、資金的要素に相当な欠陥があって、事業の経営が確実とは認められない場合をいうと規定していることが認められるところ、酒販免許制度の目的、一〇条に定める他の拒否事由や酒税法の他の規定との対比から、基本通達の右解釈は妥当なものということができる。ただし、将来の事業経営の確実性を厳格に問うときは、新規の小規模業者については、苛酷な要件となり、殆どの申請者が免許拒否事由に該当することにもなりかねないところであり、基本通達の右規定の解釈においては、客観的に見て申請者の経営要素の欠陥が相当程度に存するかどうかに重点を置いて判断をすべきである。なお、原告は、一〇条一〇号後段につき破産者に準じる程度の信用の欠如を要すると解すべき旨主張するが、経営の基礎薄弱には様々な類型のものが有り得るところであるし、文言上からも、酒販免許制度の目的との関係からも、同号後段を原告主張のように著しく限定して解釈することは相当でない。

2  <証拠略>によると、原告代表者である笹沼英男は、かつて家電店を個人経営していたが、昭和六〇年六月、本件申請にかかる販売場所在地の自己所有の土地建物において、大手のコンビニエンスストアーのグループであるセブンイレブンのフランチャイズ店を開店したこと、笹沼英男は、同年一二月、妻のサヨ及び菊地英夫とともに、資本の総額を一〇〇万円とする原告会社を設立し、以後、原告が右店舗建物を笹沼英男から賃借する形を採って、コンビニエンスストアーの経営主体となっていること、その後、原告の資本の総額は、昭和六三年七月に三〇〇万円に、平成元年二月に五〇〇万円に増額されていること、原告の実態は、笹沼英男及びサヨを中心とする小規模の同族会社であることが認められる。

3  被告の主張1(二)の(1)、(2)の事実(原告の第一期ないし第四期の決算状況、第四期は短期決算を組んでいること、第三期または第四期に原告店舗賃借料や役員報酬が減額されたこと、右減額がない場合には原告は依然未処理損失金を抱えた筈であること)及び原告が前田酒販との間でコンサルタント業務契約を締結し右契約に基づき同社に六五〇万円を支払い、これが決算書上前払金として処理されていることは当事者間に争いがなく、<証拠略>によると、原告は、酒類販売業の免許を取得したときは、前記契約に基づき、前田酒販に対し、更に、六五〇万円を支払わなければならなくなることが認められる。

被告は、右事実をもとに、原告の経営成績は低調であり、仮に酒販免許を取得した場合には、営業状態は一層悪化されることが予測される旨主張する。

なるほど、店舗賃借料や役員報酬の減額がされたことや第四期に短期決算が組まれたことからは、原告が、酒販免許を取得することを目的として、作為的に、原告が決算書上黒字会社であるとの形を整えようとしたことが容易に推察される。しかしながら、賃借料や役員報酬を減額した結果、その金額が客観的に見て著しく不相当となる場合であれば、将来に亙ってこれを維持することは困難であると考えられ、いずれ再度赤字に陥ることが予想されるから、経営状況が低調であると評価されてもやむを得ないところであるが、減額後の金額が、客観的に相当と認められる範囲内であり、原告並びに笹沼英男及びサヨにおいて、これを継続する意思がある場合であれば、賃借料や役員報酬の減額がなされたとの一事をもって、原告の経営成績が低調であると推認することはできないところである。そして、本件においては、減額後の賃借料(月額三〇万円)や役員報酬(英男月額五五万円、サヨ月額四〇万円)が客観的に不相当であることを認めるに足りる証拠もなく(なお、笹沼英男及びサヨの役員報酬額は、その一部がローンの返済に充てられていることを考慮しても、笹沼世帯の家計を維持するうえで支障を生じせしめる金額であるとは考えられない。)、加えて、赤字である第一期は創業から間もない時期であり、また、<証拠略>によると、第二期については、昭和六一年九月から昭和六二年三月にかけて原告店舗前面の国道の側溝、歩道工事がなされたという事情により一時的に顧客が減少したことがあり、このことが第二期の赤字決算に大きく影響していることが認められ、これらの事情を斟酌すると、原告が、その経営において低調であると評価することはできないというべきである。

もっとも、原告は、本件処分時には、既に前田酒販に支払った顧問料六五〇万円の償却をなしておらず、加えて、酒販免許を取得したときは、更に、前田酒販に六五〇万円を支払う義務を負うこととなるところ、原告の第一期ないし第四期の収支決算状況に照らすと、これらの費用の償却、捻出を順調になしうるかについての不安がないともいいがたいところである。しかし、他方、原告の売上状況等を見ると、<証拠略>によると、原告の第二期の売上高は二億六八二万七一九〇円、売上総利益は五七九八万一六六八円、第三期の売上高は二億五一〇三万四八三七円、売上総利益は七〇五五万一四七五円、第四期(四か月)の売上高は九一七五万三二六三円、売上総利益は二五九五万四三二七円となっていること、ただし、原告は、各期にそれぞれ粗利の四五パーセント程度のロイヤリティーをセブンイレブンの本部に支払っていることが認められ、右売上高や売上利益の金額及びこれが上昇傾向にあることとの対比においては、前田酒販に対する顧問料の支払が、原告にとって過大な負担となると断じるのは疑問が残るところである。加えて、酒販免許申請者の経営基礎要件は、申請者について判断すべきものであるが、他から期待しうる援助等を斟酌事情にいれることを排斥すべき理由はなく、実際上も、小規模会社が金融機関等から資金調達をする場合においては、代表者個人が保証人となったり、担保物件を提供したりすることも、頻繁になされていることからすれば、申請者の代表者等の信用、資産状況を、申請者の経営基礎を判断するうえで、斟酌することが相当である。これを、本件について見ると、<証拠略>によると、原告が代表者である笹沼英男から援助を受けることが十分見込まれることが認められ、同人の信用、資産も原告の経営基礎を判断するうえで斟酌すべきであると考えられるところ、<証拠略>によると、原告代表者である笹沼英男は、原告から前記のとおりの金額の賃料収入及び役員報酬を得ているほか、矢板市東町に宅地(現況地目)二四六八平方メートルを所有し、右土地及びその地上建物の評価額は平成元年度の固定資産税評価額でも三五〇〇万円近くにのぼっていることが認められ、右事情を考慮すると、原告の資金調達能力には相当程度のものがあるということができ、前田酒販に対する一三〇〇万円の顧問料の支払、償却によって、原告の経営が逼迫する虞れはそれほど高いとはいえない。してみると、前田酒販に対する一三〇〇万円の顧問料の支払の負担があるからといって、原告の経営の資金的要素に相当程度の欠陥があるとまでいうことはできないと考えられる(なお、本件処分の適否に直接影響を及ぼすものではないが、<証拠略>によると、原告は、第六期(平成元年九月一日から平成二年八月三一日まで)において、前払金となっていた前田酒販に対する顧問料六五〇万円を償却して、なお、未処理利益金を計上していることが認められ、既払分については、原告の経営を逼迫させていない。)

4  また、前田酒販の経理部長の職にあった山本啓一が原告の取締役となっていることは当事者間に争いがないところ、被告は、山本の経済的信用の薄弱、経営能力の貧困及び遵法精神の欠如を指摘して、原告会社の人的要素には相当の欠陥がある旨主張する。

しかし、<証拠略>によると、免許取扱要領では、酒類小売業免許の申請者の人的要件の判定基準につき、法人の場合には、免許を受けている酒類の販売業の業務に直接従事した期間が引き続き三年以上である者、調味食品等の販売業を三年以上継続して経営している者等を挙げていること、笹沼英男は、本件申請当時、右人的要件の基準を充たしていなかったこと(但し、同人は、本件処分当時には、この要件を充たすに至っていたこと)、そこで、原告は、右要件を形式的に充足させることを目的として、本件申請の代理人であった前田酒販と相談のうえ、右人的要件を充たす山本をして原告の取締役に就任させることとし、その旨の記載のある書類を添付して本件申請をなしたこと、原告会社の実態においては、笹沼英男及びサヨが中心となって経営に携わっており、山本がこれに関与することは殆どないことが認められる。

してみると、原告の人的要素における欠陥の有無については、笹沼英男及びサヨについてを主眼として判断すべきものであり、名目的な取締役に過ぎない山本及び同人が勤務する前田酒販の経済的信用等が低いとしても、それは、原告の人的要素における欠陥の有無を判断するうえで、重要な事実ということはできない。もとより、原告が、免許取扱要領に定める基準を形式的に充足させることを目的として、いわば山本の名義を借りる形で本件申請に及んだことは、酒税法及び酒販免許制度の趣旨を蔑ろにしかねないものであって、非難されてもやむを得ない点があるが、経営基礎の要件の判断は、申請者の実態に即してなすべきことは当然であるし、原告が名義借に類した形で本件申請に及んだことから、直ちに、原告代表者らの酒販業者としての適格性がないと断じることまではできないと考えられる。

そうすると、結局、原告の人的要素の欠陥に相当程度のものがあるということはできないと考えられる。

5  以上、検討したところによると、原告の経営の物的、人的及び資金的要素に相当の欠陥があると認めることはできず、原告は、酒税法一〇条一〇号後段にいう、経営の基礎が薄弱であると認められる場合には該当しないというべきである。

四  酒税法一〇条一一号該当事由の有無について

1  酒税法一〇条一一号は、酒類販売業免許拒否事由の一として、酒税の保全上酒類の需給の均衡を維持する必要があるため酒類の販売業免許を与えることが適当でないと認められる場合を挙げているが、右要件は抽象的であり、通達等によって、右要件の意義及び内容を具体化し、適切な基準を設ける等して免許許否行政の指針を示すことなくしては、同号につき適正かつ公平な運用がなされることは容易でないと考えられる。そして、<証拠略>によると、免許取扱要領では、酒類小売業の免許の付与は、<1>申請販売場の小売販売地域内に所在する全酒類小売業者の販売場から、その地域の小売基準数量の一〇倍以上の数量の販売実績を有する大規模な既存小売販売場を除外した残りの全酒類小売販売場の最近一か年における総販売量に酒類消費量の増減率を乗じて算出される数量を、その販売場の数に申請販売場を加えた数で除して得た数量が地域毎に定められた小売基準数量以上であること、<2>申請時に最も近い時における申請販売場の小売販売地域内の総世帯数を既存小売販売場数に申請販売場数を加えた数で除して得た数が地域毎に定められた基準世帯数以上であることのうち、いずれかに該当する場合に限ることとし、但書(以下「本件但書」という。)において、これらの要件に合致する場合であっても、既存の酒類販売業者の経営実態又は酒類の取引状況等からみて、新たに免許を与えるときは、酒類の需給均衡を破り、ひいては酒税の確保に支障を来すおそれがあると認められる場合は免許を与えないこととする旨の運用指針を規定していること、本件申請にかかる販売場の属する小売販売地域では、右の小売基準数量は年間二四キロリットル、基準世帯数は二〇〇世帯とされていることが認められる。

2  ところで、通達は、行政庁内部における上級庁から下級庁、職員に対する示達であって、裁判所を拘束するものではないが、全国統一的に公平な行政を行うことに資するものであるから、その内容が合理的なものである限り、裁判所が法令の解釈を行う際に斟酌すべき一つの基準足り得ると考えられ、また、通達ないしはその趣旨に反して、行政処分が行われ、特に、それが国民の権利を制約する方向で行われる場合には、裁量権の濫用ないし逸脱となりうると考えられる。

そして、免許取扱要領が、小売基準数量と基準世帯数の二つの要件を規定し、いずれの要件も充たさない場合に、免許を付与しない扱いとしたことは、かかる場合には、小売基準数量及び基準世帯数が適当に定められる限り、定型的に見て、当該小売販売地域においては、酒販業者の営業努力によって克服することが困難な酒類需要の限界があると考えられるから、新たな免許は付与しない扱いとすることに一応の合理性を認めることができ、また、免許取扱要領の定める小売基準数量及び基準世帯数の数値に格別不適当なところは見られないから、いずれの要件も充たさない申請に対する免許拒否処分は原則として適法なものと考えることができよう。しかし、本件但書の適用については、慎重に行うことが相当であり、小売基準数量または基準世帯数のいずれかの要件を充たす申請に対しては、原則として許可をなすべく、特別の事情がないにもかかわらず、右但書に依拠して、免許申請を拒否するときは、税務署長の裁量権濫用となると解するのが相当である。けだし、本件但書の内容は抽象的であるうえ、新規の酒販業者がある地域に参入した場合、当該地域の酒類の需給均衡にある程度の変動が生じることは当然であるから、右但書は、拡大的に適用される虞れを内包しているものといえ、その適用が安易になされるときは、免許取扱要領は、その実質において、免許の付与を拒否すべき場合のみを規定したこととなり、税務署長が、その権原を逸脱ないし濫用して、免許申請に対する拒否をなし、申請者の職業選択の自由を不当に制約することに対する歯止め、抑制機能は何らもたないこととなってしまい、恣意的で不公平な免許許否行政が行われないことを目的とする通達の趣旨は、片手落ちとなりかねないからである。そして、本件但書を右のように限定して解しても、小売基準数量、基準世帯数の要件がある限り、小売販売地域内の酒販業者数は一定限度に留まり、濫立、共倒れの虞れを防止することは可能であり、酒販免許制度が有効に機能することを十分に期待しうるところであり、加えて、酒税法においては、酒類販売業者の経営の安定は手段であって個々の酒類販売業者の保護は目的ではないことをも考慮に入れると、このように解することこそが、職業選択の自由をできる限り尊重しつつ、酒税保全の目的を達することにつながると考えられるところである。

3(一)  <証拠略>によると、本件申請にかかる販売場の小売販売地域内に所在する小売販売場は七場あること、右七業者の昭和六二年における合計酒類販売数量は二三万一八四六リットルであること、同小売販売地域内の昭和六三年一一月一七日現在の世帯数は一四九五世帯であることが認められ、<証拠略>中、右認定に反する部分は、前掲各証拠に照らし、採用することができない。

したがって、本件申請が許可された場合の小売販売地域内における免許後一場当り販売見込数量は二八・九八一キロリットル、免許後一場当り世帯数は一八七世帯となり、本件申請は、免許取扱要領に定める基準世帯数の要件は充たさないが、小売基準数量の要件は充たしていることとなり、前記2で判示したところによれば、本件申請に対しては、特別の事情がない限り、許可をするのが相当であったと考えられる。

(二)  そこで、本件において、需給均衡の観点から免許付与を適当でないと言い得るような事情が認められたか否かを検討する。

被告が、本件申請が酒税法一〇条一一号に該当する理由として主張する事実は、被告の主張2(二)の(1)ないし(3)のとおりであるが、そのうち、原告に免許を付与した場合の一場当り世帯数が一八七世帯となることは前記認定したとおりであり、<証拠略>によると、原告店舗の所在する小売販売地域に既に存する酒類小売販売場七場のうち四場の酒類販売数量は、小売基準数量である二四キロリットル未満であること、同小売販売地域の合計酒類販売数量は、昭和六〇年が二三五・七七五キロリットル、昭和六一年が二三一・七九七キロリットル、昭和六二年が二三一・八四六キロリットルであって、横這いの状況にあること、既存酒類販売業者七者の昭和六二年度における所得税の営業所得金額の申告状況は、平均で二五〇万円程度であったことが認められる。

しかし、合計酒類販売数量が横這いの状況にあることは、それのみでは、酒税法一〇条一一号該当性を判断する際の重要な事情とは言えないし、本件申請が基準世帯数の要件を充たさないとはいえ、大幅に右要件を割っているものではないから、これも前記特別の事情に該当するとはいえない。そして、免許取扱要領における小売基準数量及び基準世帯数の要件は、当然、既存小売業者の中に、販売数量が小売基準数量を割る業者や営業規模が小規模の業者が存在していることを想定したうえで立てられていると考えられるところであり、右要件のいずれかを充たす申請に対して免許が付与されたことによる影響は、小規模業者といえども、本来、販売業者の営業努力等によって克服されることが期待されている問題といえるのであって、前記認定の既存業者の酒類販売数量、申告営業所得金額は、未だ定型的に見て本件但書適用を基礎付ける特別の事情に該当するとはいいがたい。また、本件但書の適用の有無についての具体的判断、すなわち、新たな免許の付与が、当該小売販売地域の酒類の需給の均衡を破り、ひいては、酒税の確保に支障を来す虞れがあるかどうかについての具体的な判断を的確になすことは、既存業者の酒類販売業と他の業種との兼業の有無、既存業種及び免許申請者の販売形態等の事業形態、その他当該申請にかかる小売販売地域の具体的事情を総合検討して、新たな免許の付与が及ぼす既存業者の経営に対する影響の有無、大小を予測する作業を経ずしては、困難であると考えられるところ、本件全証拠によっても、本件申請にかかる小売販売地域における右具体的諸事情は明らかでなく、殊に、原告の事業形態はコンビニエンスストアーであり、既存業者の販売形態によっては、その客層を異にし、原告に対する免許付与の影響が、原告の予定する酒類販売量から通常予測されるところより、小さい可能性も考えられないわけではないところ、本件処分に際して右事情が格別考慮されたことは窺われず、この点からは、本件申請に対して免許を付与することが、酒類の需給の均衡を破り、酒税の確保に支障を来すおそれがあると肯定するに足りる十分な判断資料をもとに本件処分がなされたとは言いがたいところである。

4  右に検討したところによると、被告が、本件申請について、酒税法一〇条一一号に該当する事由があるとして、本件処分を行ったことには、同号該当性の判断を誤ったか、少なくとも裁量権を濫用ないし逸脱した違法があるというべきである。

五  よって、本件処分は違法を免れず、原告の請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担につき、行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小林登美子 達修 朝日貴浩)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例